メディア解説|データ復旧

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HDDの構造について|データ復旧

基本構造

プラッタ(ディスク)

HDDの中で、データを記録する円盤部分を「プラッタ」と呼びます。
通常、HDDは複数のプラッタで構成されていて、それぞれのプラッタの両面または片面にデータが記録されます。
表面にわずかな凹凸があると故障の原因となるため、高い精度の平滑性と表面硬度が求められ、高速回転による振動を抑制できる高い剛性および耐衝撃性も必要となります。これらの特性を備えるためにディスクが硬い(ハード)素材で作られているので、「ハードディスク」と呼ばれています。

プラッタの材質はアルミニウム製やガラス製、セラミック製のものがあります。プラッタの素材そのものは非磁性ですが、表面に記録用の磁性体を塗ることで、データを記録できるようになります。また、螺旋状にデータが書き込まれるレコード盤とは異なり、HDDのプラッタは同心円状にデータが記録されています。

複数搭載されているプラッタは一緒に回転していますので、プラッタの固定位置がずれてしまうアラインメントのずれが発生すると、データの読み出しは出来なくなってしまいます。データ復旧におけるHDDの分解処置でもプラッタの取り外しは極力行わないようにするのはそのためです。

HDD内のプラッタの枚数が増えればその分、データを多く記録できるようになります。しかし、高速で回転するプラッタ同士が接近しすぎると、間に存在する空気の抵抗が無視できないレベルになります。その問題を解消するために、空気の代わりに抵抗の位小さいヘリウムで満たすことで、プラッタの枚数を増やしたHDDも登場しています。

また、プラッタの中心部には軸受があり、スムーズにプラッタを回転できるようになっています。環境温度変化や、長期使用などの影響により、流体軸受けで使用されているオイルの劣化や、玉軸受で使用されているボールの摩耗が発生します。軸受が劣化すると、抵抗が増えてプラッタの回転動作が不安定となり、結果としてHDDの故障につながることが多くあります。

モーター

ハードディスクを動作させるモーターは2つ存在し、壊れてしまうと読み出しができなくなります。

スピンドルモーター:プラッタを回転させる為のモーターで、回転力を間接的機構(ギアボックスなど)を介さずに直接、駆動対象に伝達する方式「ダイレクトドライブ方式」となっています。4,200・5,400・7,200・10,000・15,000rpmが主な回転数です。ハードディスクの回転数は、スピンドルモーターの回転数となります。

シークモーター:アームを駆動する為のモーターで、2枚の磁石(主にネオジム磁石)の間に配置されたコイルにかかるローレンツ力を作動原理としているボイスコイルモーターが用いられるのが現在の主流となっています。コイルはスイングアームの端部に固定されていて、スイングアームの軸を中心とした扇形の周に沿って動いています。

軸受け

プラッタを動作させるスピンドルモーターの回転軸には、玉軸受(ボールベアリング)や流体動圧軸受(Fluid Dynamic Bearing;FDB)、流体軸受が用いられています。

玉軸受を使用する場合には、軸受から発生する磨耗粉などの侵入を防ぐためにシールが不可欠で、シール性能の高い磁性流体シールが主流となっています。

流体動圧軸受はモーターの軸と軸受の間がオイルで満たされています。停止しているときは軸と軸受が接していますが、回転することにより潤滑油に動圧が発生して軸と軸受が非接触状態となります。そのため回転抵抗が非常に低く、静音で長寿命であるため、近年では流体軸受(動圧ではない)の方が主流となっています。
オイルシール部は撥油膜で被われており、大きな衝撃を加えない限りは潤滑油は飛散しません。停止している状態や回転数が低いうちは接触による摩擦抵抗が大きいため、大きな起動トルクが必要となり、流体軸受を採用したドライブの最大消費電力はボールベアリングを採用したドライブよりも高めになります。また、極端に環境温度が低下するとオイルの粘度が高くなり、十分な動圧を発生できるほどの流動性を失うことから、機器の使用環境温度の下限が軸受の特性によって支配される場合があります。

いずれの軸受の場合でも、長期にわたる使用により摩耗したり劣化して回転抵抗が増加し、プラッタの回転速度が不安定となりデータの読み書きにエラーを発生するようになります。

ケース

プラッタに埃などの異物が付着するとヘッドを損傷する原因となるため、プラッタとヘッドの周辺は密閉されていて、開封するには特殊な工具を必要としたり、「開封後は保証対象外」と書かれた封印が貼られています。

ただし、完全密閉されているわけではなく、温度変化に伴う筐体内の気圧変化を開放するため、埃フィルタを備えた圧抜き開口部が設けられています。ヘッドに働く揚力の大小は空気密度(すなわち気圧)の影響を受けることから、ヘッドとプラッタサーフェスの距離を安定に保つためには筐体内の気圧が大きく変化してはならないためです。一方、高地などの気圧が低い環境下では発生する揚力が小さくなり、ヘッドがぶつかりやすくなるため、それぞれの製品には使用環境の気圧(高度)に関する仕様もあります。

落下などの破損により、この密封状態が失われ異物が混入し、HDDが壊れるなどの可能性があります。

ヘッド

プラッタ上のデータを読み書きするHDD内の小さな部品をヘッドと呼びます。複数のプラッタがある場合は、そのプラッタの数だけヘッドが存在します。プラッタの両面にデータが記録されている場合は、両面それぞれに1つずつヘッドが搭載されます。

データの書き込みには電磁石の原理が使用されていて、電気と磁力の相互変換により、電流を磁力に変換することでプラッタの表面の磁性体に磁力を与えます。読み取り時には、「磁気抵抗効果」という現象によってプラッタ上の磁場の影響で変化する電気抵抗を元に、データを読み取ります。

ヘッドで使用されている技術が向上すると、より狭い面積にデータを書き込んだり、読み込んだりできるようになります。同じデータ量を狭い面積に記録できるようになると、1プラッタあたりの容量が増えて、HDDの大容量化が可能となります。

近年、物理学分野での研究の成果として、磁気抵抗効果をより強く発揮できる理論が新たに発見され、HDDの読み取り用ヘッドでも応用されるようになりました。この発見をした物理学者は功績をたたえられてノーベル賞を受賞しています。この理論を応用した新しい構造のヘッドでは、より微弱な磁力でも、読み取るのに十分な電気抵抗が発生するようになり、狭い面積のデータも読み取れるようになりました。現在では、「トンネル磁気抵抗効果」を利用したTMRヘッド(Tunnel Magneto Resistive head)が主流となっています。

データ書き込み用のヘッドについても、2004年に東芝が初めて実用化した「垂直磁気記録方式(PMR)」で記録密度が向上しています。これは、プラッタ面に水平にデータを記録していた従来の方式と異なり、垂直にS極とN極が並ぶように記録する方式で、より高密度にデータを配置することが可能となっています。

さらに、記録密度を向上させる「Shingled Magnetic Recording(SMR)」という技術もSeagate社から登場しています。従来はデータを記録した部分と、ほかのデータの間に無駄なスペースが存在していましたが、SMRでは前後のデータを重ね合わせるように書き込むことで無駄なスペースをなくすことに成功し、より高密度にデータを書き込めるようになりました。

現在の技術では、データを読み取れる面積と、書き込める面積を比較すると、前者のほうが狭く、書き込み用ヘッドの精度がHDD記録密度のボトルネックとなっています。

プラッタ表面の磁性体とヘッドが直接接触すると故障の原因となることから、ライナーと呼ばれる被膜層が磁性体の上に作られており、その上をヘッドが滑るように動くことで接触を防いでいます。経年劣化によりライナーが失われるとプラッタとヘッドが接触し「ヘッドクラッシュ」という故障を引き起こすことになります。

また、移動させることの多いノートPC用の2.5インチHDDでは、振動によりヘッドクラッシュが発生するリスクが大きいため、動作していないときには退避領域にヘッドを移動する方式がとられています。また、加速度センサーを搭載し、振動を検知することで自動的にヘッドを退避させる機構を搭載したHDDも存在します。

アクセスの仕組み

データは回転するディスク(プラッタ)の上に記録されます。それを読み取る(あるいは書き込む)のは磁気ヘッドです。アームに取り付けられた磁気ヘッドが円弧を描くようにディスク上を走査(シーク)して、先端の磁気ヘッドがディスク上のデータにアクセスします。

ディスクが回転すると、その表面には回転方向に空気流が生まれます。磁気ヘッドはこの空気流に乗ってディスク面からごくわずかに浮上し、ディスク上を動きます。
ディスクには磁化膜が形成され、この膜の上にヘッドがデータに応じた磁化のパターン(N極とS極の配列)を記録します。記録されたデータを読み込むには、ヘッドで磁化膜に記録された磁化のパターンから磁界を検出し、読み出しています。

ディスクを回転させるのはスピンドル・モーターです。現在、毎分4500回転から1万5000回転が主流となっています。HDDには、使用目的によって多様な回転数のものが存在し、回転数が高いHDDほど高性能かつ高機能であり、回転数は年々高速化する傾向にあります。

磁化膜への記録方法は、以下のものがあります。

水平磁気記録方式:磁化膜に対し磁気異方性を水平になるよう磁性体を配置し、磁化することによる記録方式。面内記録方式ともいう。磁界方向が向き合っているため隣接した磁区同士で反発や吸引を引き起こし、高密度化すると磁力の減衰が起こってしまう問題があり、安定して大容量化することが困難。

垂直磁気記録方式:磁化膜に対し磁気異方性を垂直になるよう磁性体を配置し、磁化することによる記録方式。当初、垂直磁気記録方式は技術的に実用化が難しいとされていましたが、強磁性体や薄膜ヘッドの進歩の結果、垂直磁気記録方式が利用されるようになりました。

HDDの開封時にクリーンベンチ(クリーンルーム)が必要な理由

ハードディスクは毎分数千から1万程度の高速で回転する円盤(プラッタ)に磁気で記録された情報を、磁気ヘッドがデータを読み取る仕組みになっています。この磁気ヘッドとプラッタの間には、10ナノメートルという非常にわずかな隙間しかありません。10ナノメートルは1億分の1メートルで、たばこの煙や排気ガス等に含まれるPM2.5粒子の1/250程度のサイズです。

そのため、目に見えないサイズのホコリでもハードディスクの内部に入ってしまうと、ヘッドやプラッタの損傷につながります。空気中の浮遊粒子の混入を防ぐために、ハードディスクの製造工場では、Class100(1立方フィート当たり500ナノメートル以上の粒子数が100個未満)のクリーンな環境が用意されています。

データを復旧する為に、HDDを開封して物理的処置を施す場合も、製造時と同様のクリーンな環境が必要となるため、クリーンベンチ等を利用して浮遊粒子の混入を防ぎ、ハードディスクを傷つけることなくデータを読み出すことになります。

HDDの大容量化

HDDの大容量化は現在も研究が進んでいます。面密度、平均シーク時間、データ転送速度、回転数、重量など日々改良されています。そのような技術改良を支えた代表的なものが、磁気記録方式における技術的ブレークスルーです。磁気ディスク装置自体の構造の技術進化、磁気ヘッド技術の技術進化、磁気ディスク媒体技術の技術進化、HDI&メカサーボの技術進化…このような進化によって、HDDは数十年で飛躍的に性能を上げてきました。

HDDの面記録密度は、bit/in2(ビット/平方インチ)=bpsiという単位で表されます。HDDヘッドの数々の技術革新により、面記録密度は数百G(ギガ)bpsiに達するまでになりました。 現在の垂直磁気記録方式では、1000G =1Tbpsiが限界といわれています。単純に計算すると、3.5inchHDDの1プラッタあたり1.35TBの容量になりますので、一艘的な3.5インチHDDでは5枚プラッタが上限なので、約7TBという容量のHDDが製造可能ということになります。2011年現在で市場に流通しているHDDでは、3.5inchで3TBのものがでており、また4TBの製品も発売が開始されました。ただしこれ以上となると、垂直磁気記録方式では面記録密度が高まるにつれ記録ビットが小さくなり、その熱安定性を保つために保持力を大きくしなければならず、記録ヘッドの書き込み能力が不足するようになります。

そこで更なる大容量化を進めるために、様々な技術が研究/発表/導入されています。

プラッタ技術

パターンドメディア:現在は磁性層にバラバラに並んでいる磁性粒子を規則的に整列し、より少ない磁性粒子群に1つのデータを記録、究極的には1つの磁性素粒子に1つのデータを記録することを目指したものです。

ディスクリートトラック構造:隣接するトラックの磁気的な影響を減らすため,トラック間に溝を掘り非磁性層を埋め込むなどの加工を施した磁気記録構造のことです。データを記録するトラック間を磁気的に切り離すことで、再生信号の雑音を低減し、従来の媒体より密度を30~40%底上げできるようになるそうです。
上記のパターンドメディアとの組み合わせにより1Tbpsiが達成され、それが現行方式の限界になると目されています。

記録方式技術

マイクロ波アシスト磁気記録方式:磁気共鳴現象により記録媒体の磁化を局所的に反転しやすくし、磁気情報を記録する方式です。2010年に技術開発の発表があり、約3Tbpsiが実現可能とされています。単純計算では約20TBのHDDも可能ということでしょうか。

熱アシスト記録方式(HAMR):レーザーで記録層を加熱しながら記録する技術。記録ビットの保磁力は温度上昇とともに弱まります。そこでレーザ光によって記録ビットを加熱し、保磁力が弱まった瞬間に記録ヘッドから出る磁束で記録していくという方式です。記録密度としては10Tbpsiも可能としており、3.5インチHDDで約70TBの製品が可能ということになります。

ヘッド技術

トンネル磁気抵抗方式(TMR):ヘッドに電圧をかけると、トンネル効果(電子が、一定の確率で他のエネルギー壁を突き抜ける現象)によって、絶縁障壁層に電流が流れます。この時、強磁性膜の磁石の向きによって、絶縁障壁層に流れるトンネル電流の電気抵抗が変わる性質を利用して、信号の1と0を検出しています。この技術自体は何年も前から利用されていますが、精度をあげたり材質を変えることでその効果は年々向上しています。

垂直面流れ-巨大磁気抵抗方式(CPP-GMR):TMR方式の場合、ヘッドを小型化すると絶縁障壁層の電気抵抗が大きくなって、信号中にノイズが増えがちになるのが難点です。またTMRヘッドが登場する以前に主流だったGMR方式のヘッドでは、記録/再生用素子を形成する薄膜層に対して、水平に電流を流す、平面流れ方式(CIP)となっていました。CPP-GMR方式では、その名の通り、薄膜層に対して垂直に電流を流します。自由磁性層、固定磁性層の2枚の強磁性膜の間に低抵抗金属層を設けることで、絶縁障壁層を使わずに磁気抵抗効果を得ており、電流を垂直方向に流すことで素子の抵抗を低め、低ノイズ化と高周波応答性を実現しています。

制御技術

HDDの制御部には、高速化に対応する高性能回路や、記録位置を最適化する機能、消費電力を低減させながらパフォーマンスを維持する機能、消費電力・ノイズレベル・振動を抑える機能などを盛り込んだものが開発されています。

HDD容量は無限大?

2011年7月に「ハードディスクドライブ(HDD)など磁気記録媒体の情報量を無限大に増やせる可能性がある新しい物理現象を発見(九州工業大学 岸根順一郎准教授)」というニュースがでていました。データは0か1を記録することで行われていますが、特殊な磁気構造の材料に外部から磁力を与え、磁力の増加に伴い電気抵抗が極端に増減するという新しい物理現象を応用することで、記憶材料の一ヶ所に大量のデータを記憶させることができ、信号の種類が無限となる無限ビットを実現できる可能性があるとのことです。
記録媒体としてのHDDの需要はまだまだ伸びていて、近い将来も無くなることはありませんが、1個のHDDで全での情報を保存できる「容量無限のハードディスク」の時代が来るかもしれません。

3つのお約束

データ復旧のウソ?ホント?

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